20世紀を代表する作家で、今もなお『プルースト効果』としても名を残しているマルセル・プルーストは後にその効果のきっかけともされた小説
『失われた時を求めて』
の中で、紅茶に浸してやわらかくなった一切れのマドレーヌの香りをトリガーに、語り手の幼き頃の記憶を突然呼び起こさせては そこからセレブなフランス社会を背景とした長い長い物語を綴りました。
今でもそうした、「香りと記憶を結び付ける」この≪プルースト効果≫というのは、僕達の実生活の中で沢山の娯楽を与えてくれているのかなとも思いますが、そんないささかおしゃれな現象は時に勉強でも大いに使えるみたいです。
高校生の頃、僕達の間では やけに香水が流行ったものでした。
僕も含め、ちょっと背伸びしたがる男の子や女の子達はそれぞれが流行りのブランドの香水をつけては学校に行っていたように思います。
当時からあまのじゃくだった僕は、皆が好きなブランドというのがどうも性に合わなく、Clinique のhappyという香水を控えめにつけては部活をしにけだるく学校に行ったものでした。
時にスイカの香りと揶揄されていたこの香水は部活や勉強に忙しかった僕の気持ちをどこか安らかにさせてくれ、個人的にはとても気に入っていたものです。
当時 、僕には他の学校に付き合っていた彼女がいて 彼女もまたそんな僕に気を遣ってくれていたのか
『良い香りだね。』
と好んでくれていました。
そんな彼女とはよく試験前になるとファミレスで一緒に勉強をしていたのだけれど、勉強が苦手だった彼女はある時、こんな事を言ってきた事がありました。
『ね〜ね〜、あの香水ちょっともらってもいい?なんか勉強する時に嗅いでみたいんだよね。』
当時の僕は なんだかおかしな事を言うなあと思いつつも、言われた通りに 小さな5mlくらいのボトルに入れて彼女に渡したものでした。
香りが記憶を喚び起すトリガーになるというのを初めて知ったのは つい最近の事で、
実際、勉強に効果があるという研究結果が数多く出てきているようです。
≪脳は「匂い」に逆らえない。匂いで記憶をコントロールする方法 ≫
試験に向けて必死に勉強している時や調子が良い時、
アロマや香水・お香などといった特定の香りを嗅いで勉強する事を習慣にしておくと、
試験当日にその香りを嗅いで向き合う事で当時の過去の勉強の記憶が呼び起こされては、点数が幾分か上がる事が 他の幾つかの研究でも証明されているようです。
今となっては 当時の彼女の意図がどんなものだったのか、ふとそんな事を推し測ろうとすると ほんの少し切なくもなったりもしますが、
それでもほんの少しでもその時の香りと勉強との記憶が彼女の中で結びついていたのかもしれないとも思うと
あんまり綺麗な別れ方ではなかった彼女との交際も 、幾分か素敵な記憶として綺麗にしまい込んでおくこともできる気がするのです。
香りは僕達の記憶を良い意味で呼び起こしてくれる素晴らしいツールだとも言えるだけでなく、更なる可能性をも内に秘めている気もします。
そしてますますこれからは教育の現場にも香り 「嗅覚」を使った指導も出てくるかもしれません。
僕自身もそんな香りを教育にどんどん使っていく予定です。
時に五感から子供達の自発性やモチベーションが上がってくるような…
そんな学習空間も追求し創造していければよいなとも考えているのです。
梅雨終わりのこの時期に しばしば訪れる 風が気持ちが良い間(はざま)の日。
カフェや図書館といった場所で受験に向けてひた走っている中・高生も 時にはちょっと外に出て五感を解放して息抜きをしてみると
そんな心地よい風に乗ってふとした懐かしい香りに出会い、違ったひらめきと共に 目の前の勉強がふと楽しくなるかもしれません。
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